6月企画ページ

折角6月なので、6月にちなんだ物を製作してみました。
顧問・水鏡明流嬢協力の小説で小物の説明をしてもらっています。
小物自体は参考作品ページにアップしてありますので
そちらも併せてお楽しみ下さいませ





サムシングブルー

                                         小説協力・水鏡明流嬢


 かっかと頭に上がってた血がさっと下がる瞬間があって。
「あ」
 苛立ち紛れに乱暴に自室の床に置いた黒の鞄(思い返せばコレ茉莉姉のプレゼント)から
転がり落ちた白っぽいレースだらけの物体を見た瞬間が、そうだったりする。
「あっ!」
 

 
 そもそもどっちの方が悪いかと言ったら、
・・・そりゃあたしの方が悪いんだろうなーってことくらいはわかってた。や、ホントよ。
 茉莉(まり)姉とあたしが仲良しであたしがすごく茉莉姉に懐いてて、
チャリで5分くらい(徒歩10分くらい)の場所に住んでるから小さい頃から頻繁に行き来してて、
お互いの家が第二の我が家状態で、茉莉姉が就職してからは前ほど頻繁じゃなくなったけどでも仲良くしてて。
でもどんなに仲良くしてても、茉莉姉があたしのワガママをきかなくちゃならない理由にはならない。
だから、急に、あたしが会ったことない人と結婚して遠いとこ
(新幹線で2時間もかかるんだよ!)にお嫁に行っちゃうなんて言っても、
あたしはちゃんと祝福して・・・・・・やっぱ茉莉姉もヒドイよ。
 あたしは、なんていうか、
ちょっと大らかっていうか大雑把っていうかガサツっていうか煩いっていうか、そーいう感じだけど、
茉莉姉は料理上手で裁縫とかも好きでいわゆる家庭的
(今時この言い方もどーかなとは思うけど、でもこれがしっくりくる表現)な人だから、
いつか茉莉姉は結婚するんだろうなー、とは思ってた。
お嫁さん似合いそうだし、本人もそーしたいっぽいことを昔から言ってたし。
 でも早過ぎるよ!
 あたしは、茉莉姉がこんなに早く結婚するなんて思ってなかった。
だから、大学生になってバイトするようになったらそのお金で茉莉姉と2人で旅行したいなーとか、
そんなふうに思ってたのに。
 なのに、茉莉姉は結婚しちゃう。遠くへお嫁に行っちゃう。
そしてそれはもう決まったことで、あたしが嫌がっても意味が無い。
 そんなのわかってた。だから余計に悔しかった。
 あたし、男の子だったら良かったかもしれない。
そしたら、あたしが茉莉姉と結婚できたかもしれないもん。
遠いとこにお嫁に行かせないですんだかもしれないもん。
 あたしには、家族(父さんと母さんと神経質な兄貴。そして、おバカな愛犬)がいるし、学校の友達もいる。
部活の仲間もいるし、先輩とかともちゃんとやってる。
茉莉姉があたしの全てってわけじゃない。
 でも、特別だった。
 興奮してくると捲くし立てるみたいにしてしゃべっちゃうあたしと違って、
茉莉姉の話し方は穏やかで柔らかかった。
昔から、あたしが悩み事を打ち明ける相手は茉莉姉だった。
茉莉姉が全ての悩み事を解決してくれるわけでも、必ず的確なアドバイスができるわけでもない。
そんなのはわかってる。
ただ、茉莉姉に聞いてもらってあの柔らかい声で相槌を打ってもらうと、
ゴチャゴチャにこんがらがってたあたしの頭の中がすーっと整理されていって、
もうちょっとがんばろうって気力が沸いてくる。
 そんなふうに、側にいて話を聞いてくれるだけでよかった。
茉莉姉がいてくれることが、あたしにとって重要だったの。
 なのに・・・・・・・・・・・1月もしないうちにお嫁に行っちゃうんだなー。
 驚きとか悔しさとかショックとかでぐちゃぐちゃになってた頭が少し冷えてくると、
ひたひたと寂しさが押し寄せてきて、
あたしはクッションにぼすっと音立てて顔を埋めた。
 毎年茉莉姉と一緒に行ってたのに、今年の花火大会誰と一緒に行こう?
うちの母さん裁縫大っ嫌いなのに、家庭科の宿題わかんなくなったら誰に訊けばいいんだろ
(あたしの友達も皆苦手なんだよね)?
お店なんかよりずっと美味しい茉莉姉のチョコケーキももう食べられないんだ。
部活の試合も応援に来てもらえないんだ。
一緒に服買いに行ったり映画見に行ったりもできないんだ。
 頭がぐるぐる。思考は空回り。
 寝転がってフテ寝しちゃおうとして、クッションに顔を埋めたまま伸ばした足が何かに触れた。
 ん?
 あたしはクッションから顔を離して、自分の足元を見てみる。
あたしのつま先の向こう側に、蹴倒された黒い鞄が転がってた。
 黒で、くしゅくしゅの生地で、ちょっと可愛い鞄。
去年茉莉姉からもらった誕生日プレゼント。
茉莉姉はあたしの趣味わかってて、茉莉姉がくれた物が嬉しくないなんてこと、これまで一度も無かった。
 でも、遠くに行っちゃうんだよね・・・・・・・・・・・・
 と、再び落ち込みモードに入ろうとしていたあたしは、鞄の端から見慣れぬ物が見えた気がして、
鞄をつま先にひっかけて引き寄せる(行儀良くないけど、誰も見てないし)。
「あ」
 鞄から出てきたのは、お財布とハンカチと携帯電話とかそーいうあたしが入れた物と、
初めて見る・・・・・・えーと、コレ何ですか?
 コレは、全体がレースで構成されて輪になってる物だった。
可愛らしい白のレースに青いリボンが通してある。
輪の幅は5センチくらいかな、ゴムを通してあって今は縮んだ状態だから、輪の円周はわからない。
 用途と名称はさっぱりわからないけど、なんというか、ロマンティックな印象。
レースとリボンがくどくない乙女っぽい可愛さを感じさせる。
ヘアバンドじゃなくて、リストバンドでもなくて・・・・
 コレって何だろ?どーしてあたしの鞄の中に?
 あたしは眉を寄せて考え始める。
 今日は昼過ぎに茉莉姉の家に行った。
お財布とハンカチと携帯電話とこないだ借りたブレスレット(シャンパンゴールドのビーズのやつ)だけ詰めて。
 いつも通り茉莉姉の部屋に通されて、
茉莉姉がお茶(ウェッジウッドのワイルドストロベリーのマグにアイスミルクティーをたっぷり)を淹れてくれた。
 あたしは、鞄を開けてブレスレットを返して、
隣のクラスの子が数人で一品ずつ持ち寄ってお昼に教室で冷やし中華を食べてたことなんかを話してた。
そしたらそのうち茉莉姉が結婚の話を始めて、
息が止まりそうなほど驚いてパニックになったあたしは・・・・・・・
「あっ!」
そーいえば、パニックになって茉莉姉の部屋から走って逃げようとした時、
あたし一回鞄蹴倒して中身を適当に拾って確認もせずに鞄引っ掴んで走ったんだった。
なら、正体不明のロマンティックなコレは茉莉姉の部屋の物である可能性が高い
(そう考えてみれば、裁縫好きな茉莉姉が作りそうな路線)。
 ということは、あたし、茉莉姉の部屋の物を泥棒しちゃったってこと!?
「返しに行かなくちゃ・・・」
 あたしは呟いた。
茉莉姉の物を間違えて持ってきたんだから、返さなくちゃならない。
あたしは泥棒じゃないんだから。
 でも、顔合わせ辛いし、なんて言ったらいいのかわかんない。
きっと「おめでとう」て言うべきなんだろうけど、言う自信がない。
 正体不明のレースの物体を手にとって触ってみた。サラサラしたレースの手触り。
ちょっと引っ張ってみたら伸びたから、コレはゴムでくしゅくしゅになってるんだと思う。
タグとかどこにも付いてなかったから、茉莉姉の手作りの可能性大。
 あたしにはコレが何なのかわかんないけど、茉莉姉には必要な物なんだろうな(わざわざ手作りしたくらいだし)。
 そーいうふうに、茉莉姉が必要とする物とあたしが必要とする物とは違うんだろうな。
あたしは茉莉姉のこと必要だけど、
茉莉姉は大人だからあたしと茉莉姉に思ってるのと同じくらいあたしのこと必要だとは思ってないだろうな。
 あーあ。



また落ち込みかけた絶妙なタイミングを狙って母さんが声を掛けてきた。安普請の我が家は音がよく響く。
「茉莉ちゃんが来てくれたわよー!」
 え!?
 頭が慌てたままのあたしはバタバタと階段を半分ほど降りた。
そしたら、玄関にほっとした顔の茉莉姉がいるのが見えた(母さんはさっさとドラマの続きを見に居間に帰った)。
パステルブルーのカットソー、白いベルト、紺色に白の水玉のプリーツスカート、
なのに足元はおばさんっぽい茶色のサンダル。
そのファッションと髪の乱れ具合と息の切れ方などから察するに、
茉莉姉はチャリで爆走したあたしの後を走っておっかけてきたんだ(茉莉姉運動苦手で足遅いのに)。
「ごめんね。急な話で驚いたんだよね?でも私、どうしてもわかって欲しくて・・・」
 優しくて人の好い茉莉姉があたしに謝ろうとする。
その姿を見たあたしは、ぐっと胸が詰まる。
 茉莉姉は優しくて面倒見が良くて、人が好い。
だから、あたしから見たら損してるとしか思えないことも何度かあったけど、
茉莉姉は自分がそうしたいと思ったことなんだからいいの、と言う。
茉莉姉のそーいうとこがあたしはちょっと苛々して、すごく好き。正直、叶わないなって思う。
「違うでしょ!茉莉姉!」
 でもあたしは、茉莉姉がいいって言っても、茉莉姉が損してるみたいなのはやっぱヤだよっ!
「え?」
 茉莉姉は何を言われたのかわからないって顔をしてる。
あたしはどうしようもなく子供な自分に苛つきながら、勢いを減じられないで噛み付くみたいにして言う。
「違うでしょ!悪いのはあたし!だから茉莉姉は何も謝る必要ない」
 大好きな茉莉姉だから、いいことばっかりあって欲しい。
遠くにお嫁に行っちゃったら、何かあってもあたしが力になれないかもしれないけど
(別に今だってあたし何かの役に立ったりはしないけど、でもさ)、
でも少なくとも、あたしがそう思ってるのは知ってて欲しかった。
 驚いたし悔しかったし寂しいし正直ヤだと思ってる気持ちもあるけど、でも、茉莉姉が幸せなのがイイから。
あたし、気持ちだけは茉莉姉の旦那さま(顔も知らないよ)にも負けないつもりだから。
「でも・・・・」
 せっかちで興奮してる子供なあたしは上手く説明できない。
茉莉姉が困った感じで首を傾げて、階段上のあたしを見上げてる。
「でもじゃなくて、そーなのっ!だからあたし、これから茉莉姉んとこ謝りに行くからね。
茉莉姉はあたしのチャリ使って先に家に帰ってて!」
 あたしの言いたいことは、こうだ。
@茉莉姉があたしのチャリで家に帰る。
Aあたしが茉莉姉の家に行く。
Bレースの可愛いやつ(正体不明)を盗っちゃったことを謝って
(で、レースのが何かを尋ねて)、逃げないで話を聞く。
今ここで茉莉姉に謝って話を聞いたらいいと思うかもしれないけど、それはダメ。
だって悪いのはあたしなんだから、茉莉姉を家に呼びつけてる場合じゃないでしょ。
やり直すんだ。今度こそあたし、ちゃんとするから。
少なくとも、走って追いかけてきてくれるくらいには茉莉姉があたしに理解して欲しいと思ってるのがわかったから。
ちゃんと、伝わったから。
「・・・えーと、ソレ、何か変じゃない?」
 茉莉姉はまだ少し訝しげな顔。でも、あたしは折れない。
「変じゃない。あたしが臆病者だったから、やり直したいの。・・・茉莉姉、ダメ?」
 話をちゃんと訊かないで逃げたのは、怖かったから。茉莉姉が側にいてくれない未来が嫌で、
それ以上聞かないことでなかったことにしたかった。
 でも、あたしが逃げても無駄なんだよね。わかってる。
 だからちゃんと受け止めるよ。あたし大雑把でガサツで煩いけど、臆病者じゃないつもりだから。
「ううん、ダメじゃない。わかった。部屋で待ってるね」
 優しい茉莉姉は訳がわからないだろうにあたしの気持ちを汲んでくれて、
渡したチャリの鍵を受け取ってくれた。
あたしは、その後ろ姿を見つめる。
ずっと見てきた茉莉姉の背中。きっと、笑って送り出してみせる。
 待っててね、茉莉姉。
 「ごめんなさい」と「おめでとう」を言いに行くから。



コンコン、とノックを2回。
 茉莉姉が家に着いた頃を見計らってもっかい家に行くと、
おばさんが「また来たの?」と言いながら入れてくれた。
あたしはドキドキ煩い胸を宥めながら階段を登って、茉莉姉の部屋の前に立つ。
 それから、深呼吸してノックする。
 実は、まだ少し逃げ出したい気持ちはしてる。
ショックはショックだし、しつこいけど、ヤなの。
でも、茉莉姉の妹分として、茉莉姉を祝わなくちゃいけないのもわかってる。
茉莉姉があたしに祝って欲しいだろうというのも。
 なら、逃げちゃいけない。
染み一つ無いまっさらな心で花嫁さんを送り出さなくちゃ。
 寂しさの色は透明な青で、あたしの心は真っ白にはなれないだろうけど、鮮やかな青ならきっとキレイだ。
キレイな青い心で、茉莉姉を送るよ。
 だから。
「茉莉姉、入るよ」
 あたしは部屋の扉を開けた。



 茉莉姉の部屋はいつ見ても片付いてて、
可愛い小物とか好きで自分でも作ったりしててそーいう物がイロイロ置いてあるのに、
決して乱雑な印象は受けない(あたしの部屋とは大違い)。全体的な色調が落ち着いてるせいかな。
 ココはまさ正しく茉莉姉が支配する空間で、茉莉姉が好きなあたしはこの部屋が居心地いい。
きっと、これから結婚して茉莉姉が作る家もこんな雰囲気がするんだろう
(旦那さまがどんな人か知らないけど)。
 すんなりと、そう思った。
「うん。待ってた」
 茉莉姉は、コンポの正面のいつもの位置に座って、あたしのことを待っててくれた。
小さなテーブルの上には、紙袋と小箱と林檎ジュースの入ったグラスが二つ。
 ココは居心地がいい。ココはあたしを受け入れてくれる。茉莉姉は、あたしを受け入れてくれてる。
 そう胸の中で呟いて、あたしは背中の後ろに隠してた物をばっと差し出した。
「茉莉姉、コレ間違えて持ってちゃってゴメン!そんで、おめでとう!」
 あたしは、例の白いレースと青いリボンの可愛いのと、来る途中に花屋で買ってきた白百合をさしだした。
なんで白百合かというと、花屋にあった花の中で一番花嫁のイメージだったから。
 茉莉姉はあたしの勢いにちょっと驚いて、それからふわっと優しい笑顔になった。
目尻が下がって唇のラインが緩いカーブを描く。
本当に嬉しい時にしかしない、茉莉姉の笑い方。
「・・・・ありがと」
 茉莉姉は、左手の薬指に見慣れない指輪を嵌めた手で、あたしが差し出した二つの物を受け取ってくれた。
 あたしは茉莉姉の向かいのいつもの場所に腰を下ろして、
なんか頬が緩みそうになった顔を誤魔化すために、林檎ジュースをごくごく飲んだ。



「コレは、ガーター。式の時に使おうと思って作ったの。サムシングブルーのつもりで」
 あたしたちは普通に、いつも通りにくつろいで喋ってた。
テーブルの上には、紙袋と小箱とグラス2つと、花瓶に活けられた白百合。
旦那さまのことも聞いた。
その人は同じ会社の先輩で、前から付き合ってて、
転勤になるからこれを契機に結婚して一緒に行こう、ということになったらしい。
プロポーズされたのは4日前で、家族に話したのは一昨日。
そして、今日あたしに教えてくれたってわけ。
 あたしは、ビックリするくらい穏やかな気持ちでその話を聞くことができた。
だって、話してる茉莉姉がイイ顔してたから、このことは茉莉姉にとってイイことなんだなーと思ったんだ。
なら、それって茉莉姉のこと好きなあたしにとってもイイことでしょ?
 あんなにパニクったのが嘘みたいに、すんなり納得できた。
 あ、正体不明のレースの可愛い物体についても訊いたよ。
 アレ、太腿でストッキングを留めるのに使う、ガーターなんだって。
だから伸縮性があって輪になってたわけだ。
「サムシングブルー?何それ?」
 コレがガーターでウエディングドレスの下でストッキングを留めるわけだ、
茉莉姉に似合いそうだなーとか思いながら、
あたしはテーブルの上のガーターを見てた。
 いーよね。ロマンティックな感じ。
「ヨーロッパの伝説で、サムシングフォーと呼ばれる4つの品物を身に付けると花嫁が幸運を得る、というのがあるの。
4つの物っていうのは、青いもの・新しい物・古い物・借りた物のこと。
借りた物は、銀子から借りたこの真珠のブローチ。アンティークでステキでしょ?
古い物は、ティアラ。彼のお母様が結婚する時に使ったティアラよ。くださったの。
ドレスは、それに合わせて選ぼうと思ってるわ。
新しい物はまだ用意してなくて、青い物は、コレ。自分で作ったのよ」
 テーブルの上の小箱を開けて真珠のブローチを見えてくれた茉莉姉は、ガーターを指差したから、あたしも頷く。
「ソレ、可愛いよね」
「ありがと」
 茉莉姉は、そのガーターをつけて、お姑さんからもらったティアラ(どんなだろ?)をつけて、
その真珠のブローチをつけるわけだ。
ドレスどんなのにするんだろ?あたしとしては、ロマンティック路線がイメージだけどな
(茉莉姉の普段のファッションがそうだしさ)。
 あたしは、世界一キレイに違いない茉莉姉の花嫁姿を想像してにこにこしてた。
あたしがにこにこしてたら、茉莉姉も柔らかい表情になって話し始めた。
「・・・あのね、明後日、新しい物、サムシングニューを買いに行こうと思うの。一緒に来て、見立ててくれる?」
「え!いいの!うん、あたし行きたい。選ぶの手伝わせて。ね、茉莉姉、何を買うの?」
 茉莉姉の人生の一大事に関わらせてもらえるのが嬉しかったあたしは、身を乗り出して尋ねる。
「明日彼が家に挨拶に来て、来週中にドレスを選ぶつもりなのよ。
ドレスはレンタルだけど、そのドレス用の靴を買おうと思って」
「そっかぁ。わかった、絶対行くね!」
 明後日、あたしはすごく張り切るだろう。
 茉莉姉が何十足の靴を試そうと真剣に一緒に考えるし、
何店お店をハシゴしても不平なんか言わないだろう。
茉莉姉にはしてもらうことばっかりだったから、
何かしてあげられることがあるのが嬉しいと、素直にそう思う。
 あたしは今はまだ子供だけど、いずれ大人になる。
大人になったあたしは、今よりもうちょっと役に立つ人間になってる予定。
だから茉莉姉、結婚して遠くへ行っちゃってもあたしにして欲しいことができたら言ってね。
結婚しちゃっても、茉莉姉はあたしの大事な茉莉姉で、
あたしたちが一緒に過ごした時間は消えたりしないんだから。
きっとずっと大好きだから、あたしのこと忘れないでね。
 口に出しては言わないけど(だってなんか照れくさい)、
でも気持ちを篭めて見つめてたら、茉莉姉がテーブルの上の紙袋をあたしに差し出した。
「あげる。もらって」
「ん?何?」
 手渡されたスカイブルーの紙袋を振ってみると、軽い物が入っている感触がした。
茉莉姉が視線で促したから、あたしは紙袋を開けて中身を見た。
「あ、コレって・・・」
 中身は、さっきあたしが返したのとまったく同じデザインのガーター。
アレと同じで、白レースで青リボンでくしゅくしゅで、ロマンティックで可愛らしかった。
「うん。式の日にお揃いで付けようね。私はお嫁さんになるけど、でも、名字が変わっても『茉莉姉』だから。
それは、ずっと、死ぬまで変わらないから」
 茉莉姉がこんな物作ってくれてそんなこと言うから、
あたしのこと好きで大事だって伝えてくれたから、
あたしは紙袋を手に持ったまま茉莉姉にしがみついた。
茉莉姉があたしの背中をぽんぽんと軽く叩いてくれる。
 茉莉姉は柔らかくて温かくていい匂いがして、優しい感触がした。
幼い頃から、あたし、茉莉姉に抱っこしてもらうの大好きだった。
今はもうあたしの方が背が高いけど(茉莉姉小柄だから)、
でも背中を叩いてもらったら、小さい子供の頃みたいに安心した。
たぶん、お互いにおばあさんになっても同じなんだろうな。
「・・・・・・うん」
 式の日に大泣きしたくなるかもしれないけど、思わず花婿を殴りたくなるかもしれないけど、
茉莉姉のサムシングブルーのガーターとお揃いなのはあたしだけだから、あたしは我慢しようと思う。
 花婿さん、おあいにく様。
わざわざカミサマの前で誓いを立てなきゃならないあなたと違って、
あたしと茉莉姉なら、今更カミサマに誓ったりしなくていいんだからね!





「茉莉姉、あのさ、サムシングフォーって、きっと本当だよ。
だってあたし、サムシングブルーのおかげで、今、幸せ気分だもん。
あたしが幸せなら、あたしのこと好きな茉莉姉も幸せ、でしょ?」
「うん。もちろん」

 ほらね、サムシングブルーって本当だ!



【おわり】





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